No.780 ああ、思い込み
池下の古川美術館で、高北幸矢インスタレーション「落花、未終景」を見る。
数日前に高北先生がお食事にいらして、「見に来て来てー」とのこと。
先生は次女の通っていた芸大で教鞭を取っていらっしゃり、そのご縁で浅野屋へもお越しいただいています。
5月から始まった展覧会も終盤。夏に向かうこの時期なぜ椿?と思っていましたが、
高北先生の椿への執念はそんな思いを吹き飛ばすものでした。
どれ程の時間をかけ、彫られたのか、おびただしい花。
また、捨てられるだけの木の板に「これを先生として」、
「木目や節が教えてくれる」と描いたもの。
その場限りのインスタレーションの面白さを引き出してくれる為三郎記念館の建物と相まって、
迫力のある展示でした。
お庭の見える呈茶席でお抹茶を頂きました。
梅雨空に苔が美しく、その緑の中にも、心憎く、真っ赤な椿がちりばめられています。
偶然隣り合わせた御老体は芸大で日本画の教鞭を取ってらしたS先生。
先生は4月の終わり頃にこの場所を借りて写生をさせてもらったとのこと。
美しい景色をご一緒に眺めさせてもらっていると、
「実は今、気が付いたんだが、建物の板が市松になっている。
板を裏表、交互にはめて凝っている。その時には気づかず、真っ直ぐに書いてしまった。」と。
「でも良くご覧になってお書きになったんでは?」と私が言うと、
「見たつもり。思い込みは恐ろしいね」と静かに話されました。
大家の口から出た思わぬ言葉に背筋が伸びました。
その後、古川美術館本館で「風景の会 絵画展」を見ました。
ありました。私の写真とほぼ同じような構図のS先生の絵には板塀は真っ直ぐに描かれていました。柔らかな線とタッチで描かれた優しく穏やかな絵です。
先生の心中やいかに。私にも忘れられない一言になりました。
ジャンルを越えて愛知の風景を描いた本館もとても見応えがありましたよ。
高北幸矢インスタレーション「落花、未終景」 為三郎記念館 7月15日まで
風景の会絵画展 古川美術館 7月15日まで
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